視力検査
眼科に行かれてまず行う最もポピュラーな検査です。
これは緑内障に特有という検査ではなく、眼科の疾患全てに適用となる基本的な検査です。しかし、一部の緑内障を除けば、ほとんどの緑内障では視力は最後まで保たれていることが多いのです。
言い換えれば末期になっても視力が1.2や1.5もある人が少なくないのです。
ですから、緑内障の程度や進行の有無を視力で判断してはいけません。
視野検査
緑内障診断の際の重要な検査の1つです。
緑内障を機能的に把握でき、緑内障の進行状態、すなわち進行が早いか遅いか又は停止しているかという極めて重大なことがわかります。
始めのうちは検査に慣れず疲れるものですが、2、3回と検査をしてゆきますと信頼性のある結果が得られるようになります。
大切な点は、疲れる検査でもありますし、初回の検査は不慣れも影響しますから、データに信頼性がない場合があることです。信頼性の低いデータで緑内障の進行を判定しますと、進行を見逃したり、逆に進行がないのに進行と判断されてしまうことがありますので、データを解釈する前にデータが信頼できるかどうかを考えることが大切です。
また、この検査は緑内障だけのものではなく、網膜、緑内障以外の視神経をはじめ、脳腫瘍や脳内出血といった頭蓋内の病気も検出することがありますので、緑内障として説明できないような視野の結果が出た場合は、緑内障以外の病気の関与の可能性も忘れてはいけません。
最近では、通常の視野検査では検出できない変化を早期に発見できる視野計として、Matrix視野検査や、緑内障が持っている青系の色覚異常を利用したBlue on Yellow視野検査などもあります。
新しい視野検査
今までより、早期に視野の異常をみつけることができるMatrix視野計というものが開発され、当院でも導入いたしました。
網膜の神経細胞は大きく3つに分かれています。
網膜の一番外側の細胞(視細胞)、中間部の細胞、そして内側の細胞(神経節細胞)です。
緑内障ではこの中の一番内側の神経節細胞が障害されます。そのため、現在ではこの細胞の機能異常や形態異常を早期に発見することを目的に、視野検査やOCT並びに眼底検査が行われています。
この神経節細胞の中に色々なタイプの違う細胞が存在しており、この特殊な機能をもつ一部の細胞の異常のみを検出できるのが、Matrix視野計です。
検査方法は通常の視野とほとんど同じですが、指標が振動しますので、少し妙な感じがするかもしれませんね。
隅角検査
これは緑内障ならではの検査の1つです。
眼に粘性のある目薬をつけて特殊なコンタクトレンズを載せて検査します。この検査は点眼麻酔をあらかじめ行いますので、ほとんど痛みはありません。図のようにミラーをうまく利用して通常では検査が不可能な角膜と虹彩との隙間(隅角)を観察するのです。この隙間(隅角)では眼内から眼外に流れ出る房水の出口を直接見ることができますから、緑内障のタイプを決定する際や手術の方法を決める時には非常に重要になります。
検査の後、粘性のある点眼薬の影響でしばらく物がぼーっと見えることがありますが全く問題ありません。
眼圧検査
緑内障の検査すなわち眼圧検査とお考えになる方が多いのですが、緑内障かどうかの診断には関与しません。では、その意義はと言いますと、緑内障の診断の後で行うタイプの決定や、治療の効果の判定の際に重要になるのです。
眼圧を考える場合、眼圧はいろいろな因子に影響されて変動します。例えば、1日の中でも午前と午後とで変わりますし、季節でも冬は高めになる方も多く、座る姿勢と寝る位置でも変動します。水を飲んだ直後でも上昇します。その他、眼圧を測定する機器の違いでも変化します。
広く普及しています空気眼圧計(眼に空気を吹き付ける)は測定毎の値がバラツキが機械の性質上大きくでることがありますから値の解釈には注意しなければなりません。この眼圧計は機械が自動的に角膜の中心の位置を認識し、一瞬に空気が角膜に吹き付け、角膜をわずかに凹ませて眼圧を計算します。角膜に直接機械が触れないことと、測定者の技術には左右されないという長所があります。
眼底検査
①通常の眼底検査
〈正常な眼底〉
緑内障では眼底検査で視神経や網膜の状態を観察します。視野検査が正常でもこの検査のみで緑内障と診断できることもあり極めて重要な検査です。
左の写真は正常の人の眼底写真で視神経が写っています。視神経はドーナツの様に丸く(少し赤みがあります)中央に白い部分が見えますね。この白い部分が視神経乳頭陥凹なのです。よく健診で視神経乳頭陥凹があるとのことで緑内障疑いとされますが、この乳頭陥凹は正常でも存在するものなのです。重要なことは、この乳頭陥凹が緑内障性かどうかを判定することです。
〈緑内障の眼底〉
この写真は正常眼圧緑内障の人の眼底で視神経が写っていますね。しかし、上の写真と比較しますと、なんだか白い色をしています。これは上の写真にあった視神経乳頭陥凹が大きくなり、大部分が乳頭陥凹になってしまったからです。また、上の写真でドーナツが赤く見えたのはここに毛細血管がたくさんあったためですが、この毛細血管が消失してしまっているために白く見えているのです。しかし視神経の周辺に少し赤い部分が残っています。
②レッドフリー検査
〈通常の眼底検査(a)〉
〈レッドフリー検査(b)〉
これは同一の患者さんで右眼の眼底を通常の眼底検査(a)と特殊なフィルター(レッドフリーフィルターと言います)を使って撮影した眼底像(b)をしめします。(a)の画像では視神経から楔形に伸びた少し暗く見える部分がありますが、これを視神経線維層の欠損と言い、緑内障の診断では最も重要な所見になります。ですから通常の眼底検査でこのような所見が検出されれば緑内障と診断できるのです。しかしこの例のようにはっきりと見えればよいのですが、実際にはけっこう難しいのが実情です。そこでレッドフリーフィルターを使い、この所見をもっと検出しやすくしたのが(b)の画像です。この画像では神経線維層欠損の端の部分に出血も見られます。
③OCT検査
緑内障の領域での最近の大きな話題の1つはOCTという診断機器の緑内障診断への導入です。この機械は網膜疾患の診断には以前から早く導入されたもので、網膜疾患の診断に大変大きな進歩をもたらしました。
今までは、緑内障における網膜の診断には経験がかなり必要でしたが、この機械で簡単に検査できるようになったのです。網膜は約10層の薄い膜状の組織で構成されており、緑内障ではこの網膜の一番内層にある神経繊維層や、その外側の神経節細胞層の障害が起因とされます。ですから、この2つの層の異常を早く発見できれば緑内障の早期発見・早期治療に著しく貢献できることが予測されていましたが、最新の新しいタイプのOCTの開発でどうやらこの2つの層を緑内障専門医に頼らずとも診断ができるようになりました。
ただ、これですべての緑内障がわかるのではなく、あくまでも機械ですから、緑内障でないにも関わらず緑内障と判断してしまうこともありますし、逆に緑内障であっても発見されない例もありますので、眼科医が通常の検査などとともに総合的に判断する必要があることはいうまでもありません。
眼軸並びに角膜厚測定
眼圧は角膜の厚さによって測定値が変化します。正常の人の角膜は約520μmですが、もし角膜がこれより薄いと、測定値は低く出てしまいます。ですから、緑内障のために眼圧下降点眼薬を使用している人が、もし角膜が薄いとしますと、測定値は低く出ますから、治療はうまくいっていると評価してしまいますが、実際の眼圧はそれより高いことになり、知らない間に緑内障が進行してしまうということにもなりかねません。そこで、眼圧計で得られた測定値を患者さん自身の角膜厚で補正し、この値を患者さんの実際の値としてみる必要があります。
また、同時に測定される眼軸長は、眼球の前後径ですが、これは眼底検査やOCT検査で得られた画像の補正に使われます。たとえば眼軸の長い強度近視の人と近視のない人では、同じ視神経の大きさであっても強度近視の人の方が小さい画像になってしまうからです。このように角膜の厚さや眼軸は緑内障を正確に評価する上で非常に重要なのです。
ORA(Ocular Response Analyzer)
緑内障診断での新しい知見は、角膜の“可塑性(かそせい)”が緑内障発症並びに進行のリスクがあることを示す研究が進んでいるということです。
”可塑性“って難しいですよね。
わかりやすく言うと、衝撃を吸収する機能が角膜にあるかどうかということです。
緑内障の原因は網膜の中に存在する神経線維が障害されることにあります。神経線維は、眼内から眼外に、眼球の壁にある孔(あな)を通って、脳まで情報を伝える仕事をしています。もしこの眼球の壁が収縮したり変形したりすれば、孔を通っている神経線維の束(視神経のこと)が障害を受けてしまうことになります。この壁自体が外からの力(眼圧)をうまく吸収できれば、孔を出入りしている神経線維に及ぼす影響を防ぐことができます。
実際の孔は眼球の真後ろにあるので、孔の周辺の壁を直接検査することはできません。しかし、この壁の延長である角膜なら、眼球の前にあるので調べることができます。
そして、この角膜の“可塑性”を調べる装置がORAです。